① からの続きです。
●テレビアニメとしての「機動戦士ガンダム」の画期的魅力
ガンプラブームとの相乗効果もありテレビシリーズは知らない人はいない大人気作品になり、何度も何度も夕方に再放送が繰り返され、劇場版3部作も作られていきました。
©日本サンライズ
ロボットアニメでいえば、それこそリアルタイムで「マジンガーZ」から観ている私ですが、ガンダムの何が画期的だったのか、と思い返せば…
やはり「戦争」と「兵器としてのロボット(モビルスーツ)」のリアルさ に尽きる気がします。
それより前のエポック的作品、「宇宙戦艦ヤマト」でも戦争がこれまでになくリアルかつ精緻に描かれ、セリフ中の用事用語も戦争映画としてのディテール描写が優れていた点が画期的だったのですが、リアルな戦争と兵器としてのロボットを両立させた点で、ガンダムは新たなエポックでした。
ヤマトもガンダムも「敵はナチスドイツを思わせる独裁国家」という点では共通(ほかの作品も大抵そうですが)なのですが、領土拡大、侵略との戦いであるヤマト以上に、ガンダムの描く独立戦争は「双方に理屈と正義があり、どちらが正しいとは言い切れない」点で、実にリアルでした。(デスラーのガミラスにも大義はあったのでしょうけどね)
また、主人公が主人公らしい熱血漢ではなく、実にナイーブでメカオタクで、「ガンダムに乗りたくて乗ってるんじゃないんだ」とか「僕がいちばんうまくガンダムを乗りこなせるんだ」とか、どっちやねん、といじけたりひねくれたり苦悩するのも、当時としては画期的だった気がします。
そして一方、敵役のシャアはクールでスタイリッシュで完璧、当時の男の子はほぼ全員、シャアに憧れました。イケメンの敵キャラ、というのはライディーンやボルテスVなどでもお馴染みではありましたが、このシャアが敵の軍の中で裏切ったり復讐を図ろうとしたり、というのも、戦争の道義的な部分は複雑で、正義vs悪、という単純なものではない、というのを伝える良いスパイスでした。(当初の設定は単なる敵役の1人で早々に殺される予定だったそうですね)
もう一つ、”兵器”としてのロボット(モビルスーツ)、については第1話の冒頭でザク数機が無重力状態の中コロニーに進入を図るシーン、最初の戦闘シーンでのマシンガンから落下する弾薬、などのシーンで、「これまでのロボットアニメとは違う」感が衝撃的でした。
冷静に考えれば主人公の父親が開発した新兵器のロボットに乗っていきなり使いこなせて…などとこれまでのロボットアニメの王道的な、ご都合主義的な始まり方ではありますが、第1話からそのディテール描写は実に繊細で、なおかつテンポよく作品の全体像を理解させる完成度で始まります。
さらに細かい点で言えば「宇宙世紀」とか「ミノフスキー粒子」などの設定の確かさ、など魅力は数限りなくありますが、それらは後乗せで知った魅力であり、ガンダムの魅力、当時の小中学生目線で一言でいえば、「とんでもなくリアルな宇宙戦争映画としてのロボットアニメ」なんではないでしょうか。
小学生の高学年から中高生、大学生が観ても恥ずかしくないドラマのクオリティがあり、そしてその年代がプラモデルの入門として最適だった、という相乗効果で、あれだけの大ブームになった感じがします。
ちなみに…子供心に「即席の素人だらけのホワイトベースが、歴戦の強者相手に連戦連勝は(いくら兵器としての能力差があるとは言っても)いくらなんでも…」という感覚は確かにありましたが、後から語られる「ニュータイプ」という概念でうまく補完されたのも「やられた」という感じでしたね…。
●当初はロボットアニメ的要素も
とはいえ1st.ガンダムはまだまだそれまでのロボットアニメの呪縛から完全には逃れられていませんでした。
なにせガンダムは兵器としては目立ち過ぎだろ、という正義の味方のトリコロールカラーですしガンタンクも同様。さらにはガンキャノンは真っ赤っか、これはやはり当時のおもちゃメーカーからのマーチャンダイジング的な要望だったようです。
オープニングのガンダム、ガンキャノン、ガンタンクの揃い踏みを見るだけなら「リアルなゲッターロボ?」ってな感じですし、「戦闘機が変形してロボットになる」というギミックもソレっぽい。
前半戦に「ガンダムのパワーアップパーツ」として登場するGアーマーなんかは、いかにも合体・変形すると子供が喜ぶ&おもちゃが売れるから、的な発想の塊で見た目も醜悪でした。
おそらくはコアファイターを核としてガンダム、ガンキャノン、ガンタンクが合体!というギミックもあったのでは?と思います。上半身ガンダムで下半身ガンタンクとか…(身の毛もよだちますが)
そんな当時の外野の要求を受け入れつつ、SF戦争映画としてのリアリティを崩さず作品に仕上げたあたりに、総監督の富野由悠季さん、メカニカルデザインの大河原邦夫さん、キャラクターデザイン&アニメーションディレクターの安彦良和さんらスタッフの苦労が偲ばれます。
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