今回は、2019年11月に宝島社SUGOI文庫から出版された「完全版 証言UWF 1984-1996」をご紹介します(文中敬称略)。
この本は、過去に出版されたUWF関連の3冊を再編集したもの。
巻頭には「高田延彦×武藤敬司」の“24年後の10.9 特別対談“も掲載されています。
インタビューに登場するのは、
前田日明
高田延彦
更科四郎 / 杉山頴男 / ターザン山本
藤原喜明
山崎一夫
新間寿
上井文彦
中野巽耀
宮戸優光
安生洋二
船木誠勝
鈴木みのる
田村潔司
垣原賢人
川﨑浩市
尾崎允実
金原弘光
山本けんいち
高坂剛
山本宜久
石井和義
鈴木健
坂田亘
ミノワマン
山田学
高橋義生
という面々(掲載順)。
レスラーだけでなく、フロントやマスコミなど、UWFと深く関わった、ほぼ全ての人が網羅されています。
中でも高田延彦が「UWFを語る」というのが貴重で、だから表紙も高田なんでしょうね(なぜかIWGPベルト姿ですが)。
主要レスラーでは、佐山聡と木戸修、高山善廣、桜庭和志などは登場していません。
あと、話を聞いてみたい関係者で載っていないのは、第二次UWFの神社長と鈴木専務くらいでしょうかね。浦田さんはお亡くなりになりましたし…
●答え合わせ
以前、このブログでは過去出版された「1984年のUWF」という本はどうにも納得がいかない、という思いで私なりに「UWFとは何だったのか」というシリーズを連載しました。(リンクは巻末参照)
この本はソレの答え合わせの意味もありましたが、概ね外れておらず「やっぱりそうだったのね」というのが率直な感想です。
もちろん細かなディテールは今回、初めて知る話もたくさんありましたが…その話はまた後で。
●真実はひとつじゃない
さて、この本。700ページを超えるボリュームですが、あっという間に読んでしまいました。
ぶっ通して読んで、まず感じたのが、「真実はひとつじゃない」ということでした。
●第一次UWFはどのように誕生し、崩壊したのか?
●なぜ第二次UWFは解散し、三派に分裂したのか?
●U系3団体はなぜあれほど確執が根深かったのか?
●UWFはどのように「消滅」したのか?
これらのテーマについて、当事者が細かく語っていますが、聞けば聞くほど微妙に食い違い、わかったようなわからないような、という感じになります。
そしてこれは、それぞれが自分の都合の良いようにウソをついたり隠したりしているのではなく、
その人が見えていたこと、知っていたことが各自微妙に違う、ということと、
実は当事者達が一番よくわからないもんなんだ、そんな印象を受けました。これは我々だってそうですよね。
そもそものUWFは「理念があって集まり始まったものではなく、行きがかり上誕生して、なんとなく思想が固まっていったもの」ということは、前にも書いた通りです。>⑧「UWFとは、何だったのか?」
こうして改めて当事者の皆さんの声を聞くと、ブームを巻き起こしている時、揉めている時…ソレが外からどう見えていたのか、ファンからどう期待されていたのか、それぞれが違うことを感じ、信じていたんだなぁ、ということがよくわかりました。
もう誰が正しいとか真実か否か、とかではなく、現実とはそういうもんだよな、と思います。
●「カネ」が8割
そしてもう一つ。
この本でとにかく全員が口にするのが「カネ」。
そもそもUWF誕生につながる新日本プロレスのクーデターが起きたのも売上利益がアントンハイセルに流れて経営が逼迫し、選手のギャラが上がらないことで選手達が不満と不安を感じたからでした。
そして第一次UWFで佐山と前田が衝突したのも、大揉めに揉めながら結局新日にUターンしたのも、第二次UWFがブームの最中崩壊したのも、Uインターが末期、ガタガタしてたのも…
結局はカネが問題なんですよね。
「メシが食えるのなら佐山さんの言う通りにやったよ」(前田)
もちろんカネばかりでなく、人間関係とか目指すものの違いで起きた事件もありますが、なんだか8割方カネが原因、そんな印象なんですよね。
第二次UWFだってUインターだって、ブームを巻き起こし、隆盛を極めた(ように見えた)時期がありました。
しかし、その内情は常にギリギリだったと。
つくづくこの頃の団体運営と興行は、地上波放送権料なしには成り立たないビジネスモデルだったんだな、というのが2つ目の感想です。
結局、K-1やPRIDE、既存のプロレス団体もソレがなくなると消滅しましたし、いまの新日本プロレスはしっかりとした企業がまともな経営しているから続いてるし、ここまで持ち直したんですよね。
●プロレスと格闘技
この本のもう一つのテーマ、それは「プロレスと格闘技」についてです。
わかりやすく言うと、プロレスのリアルファイトへの変遷の話(そんな単純なもんじゃないんですけどね)。
コレについてはほぼ全員が言及していて、「UWFとはなんだったのか?」ということにもつながる、外せないキーワードです。
当時、小学生から高校生だった私でさえ「さっさとやればいいのに。そっちの方がウケるのに」と思っていたことも、当事者達からすると「まだ早い」としか思えず、手探りで、ゆっくりゆっくりと変わって行ったことがよくわかります。
「だからダメなんだ」と後から言うのはカンタンですが、コレってホント、複雑で難しいテーマだったんだろうと思います。
シンプルに分けてもレスラーと営業などのフロント、スポンサーやプロモーターなど団体と興行には利害関係者が山ほどいます。カネが絡んでるワケです。
さらに、この本を読むとよくわかるのが、それぞれの中にもさらに複雑なレイヤー(階層)があって、想像以上にコミュニケーションが分断してます。
誰かがソレをやる、と決めても追従するとは限らず、個で決めたら反発して恨まれて、だったら、と話し合いなんかしても、まるで役に立ちません。
そもそも「プロレス=八百長」「格闘技=真剣勝負」みたいにカンタンに分けて考える人が多いけど、少し考えてみてください。
機械ではなく人間のやることで、さらには腕っぷしに自信のある者が集まって団体を形成していて、日々の感情でいつそっちにいくかわからない(実際いったりきたりしてる)中でやってる、というのを理解してない人が多いんですよね。
ガチのケンカでも途中で気が変わって和解することもあれば、余裕があれば相手にええカッコさせといてから恥かかせることだってあります。
たとえ真剣勝負のルールであっても、つい「情け」とか「上下関係」とかがアタマをよぎることだってあります。
「白か黒か」じゃないんですよ。
確かに「真剣勝負です」と言っておいてそうじゃないなら詐欺ですけどね。UWFがなにかと批判されるのはその点なんですが、実際のところどうだったの?と当事者に聞くと、その線引きは想像以上に、かなり曖昧でした。
その辺りの微妙なニュアンスを知れただけで、この本を読む価値はありました。
●たらればの話
もしあの時、アントニオ猪木が新日プロを捨てて合流していたら、はさておき(そうなるとそもそもUじゃなくなっていたでしょう)、佐山と前田が決裂しなかったら、前田が「解散」しなければ、果たしてUWFはどうなっていたのか?
でも、もしそうならなかったとしても、遅かれ早かれ「こうなっていただろう」としか思えません。
もしホントに違う未来があるとしたら、この本で当事者達が皆言ってるように、しっかりとしたスポンサーが付き、明確なビジョンを打ち出して経営できる強いフロントがいて、レスラーをコントロールした場合のみでしょう。
それでも、やっぱりなんらかの理由で分裂して、こうなっていたんじゃないだろうか。
だから(UWFに限らず)プロレスは面白いし、いまだに語れるんだろうと。
そんなことを考えた一冊でした。
<関連コンテンツ>
シリーズ【UWFとは何だったのか?】
①佐山引退から第一次UWF
②新日プロUターン/前編
③新日プロUターン/後編
④新生UWF旗揚げ~崩壊
⑤UWFインターナショナル編
⑥藤原組、バトラーツ、パンクラス編
⑦リングス編
⑧最終回「UWFとは、何だったのか?」
⑨追撃戦~新間寿氏 から見たUWF / 週ゴンvs週プロ代理戦争
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