今回は、絶賛公開中の「シンエヴァンゲリオン劇場版」で、ユーミンの唄うこの映画の挿入歌「VOYAGER〜日付のない墓標」が使用されたことで突如、注目を浴びた1984(昭和59)年公開のSF映画「さよならジュピター」をご紹介します。
制作経緯〜打倒「スターウォーズ」
とにもかくにも、1977(昭和52)年公開の「スターウォーズ」(日本公開は1978/昭和53年)は、衝撃でした。
この空前のブームに「ゴジラ」(1954/昭和29年公開)以降、「特撮の本家」としての東宝の危機感は相当なものがあったと思いますし、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」(1977/昭和52年公開)の大ヒットも、それに拍車をかけました。
その流れで急遽制作、公開されたのが、以前ご紹介した東宝「惑星大戦争」と東映「宇宙からのメッセージ」です。
それよりも先に、「世界に通じるSF映画を日本で制作しよう」と立ち上がったのが、日本SF界の巨人・小松左京さんでした。
小松さんはかねてから「2001年宇宙の旅」(1968 昭和48年公開)に匹敵する本格SF映画を日本で作りたい、と念願。本作の製作/原作/脚本/総監督にプロデューサーも務め、この映画のために「株式会社イオ」を立ち上げる力の入れようでした(本作は東宝との提携作品)。
>「スターウォーズ」と「惑星大戦争」「宇宙からのメッセージ」はコチラ
「さよならボイジャー」1984 東宝
監督:小松左京(総監督)/橋本幸治(監督)/川北紘一(特技監督)/脚本:小松左京
原作:小松左京
製作:田中友幸/小松左京
出演:三浦友和/小野みゆき/岡田眞澄/平田昭彦/森繁久彌
音楽:羽田健太郎
主題歌:松任谷由実「VOYAGER〜日付のない墓標」
しかし、大コケ
こうして華々しく公開された本作ですが…作品としての評価は低く、「詰め込み過ぎて破綻」と、各方面で酷評されました。
失敗の理由は、制作費が当初予算の1/3程度に抑えられた、当初予定していた監督(「日本沈没」の森谷司郎さん)が死去した、などさまざま語られていますが、設定やプロットを、ストーリーにうまく活かしきれなかったのだと思います。
中でも、「日本の特撮映画では初めてロボットアームを使用したモーション・コントロール・カメラによる撮影」という触れ込みで目玉なはずの特撮クオリティも、素人目には往年の「東宝映画の特撮」とさほど変わらず、既に「スターウォーズ」を“知ってしまった“観客からすると、期待ハズレ&コレじゃない感が満載でした。
「木星太陽化計画」「ナスカの地上絵様の火星の巨大な絵」「木星に潜む謎の巨大物体ジュピター ゴースト」「ブラックホールが太陽系に迫る」などなど…小松氏とSF作家陣がブレストして固めたと言われるアイデアは壮大なものの、映画としてのシナリオも正直、「?」だらけ。
話題なったのは「無重力ラブシーン」や、ギャグにしか見えない「ジュピター教団」の方でした。
評価の高い「原作」
小松左京氏が執筆した小説版は、「原作」と言うものの正確には初期の映画脚本を基にした「ノベライズ」です。
こちらは映画より評価され1983(昭和53)年、SFファンの投票によって決定される「星雲賞」の日本長編部門賞を受賞しています。
「ビデオ同時発売」で回収
投資した予算に見合った興行収入は得られず(配収で3億円)、後に映画ソフトによってなんとか回収できた、と言われています。
それは、3月17日の劇場公開と同時にセルビデオ(VHS/ベータ)を発売したため。これは当時としてはかなり異例のチャレンジでした。
出演者
主演は三浦友和さん、ヒロインはディアンヌ ダンジェリーという女優さんですが、これ以降さっぱり見かけませんでした。テロリストのリーダーを演じたのは、小野みゆきさん。彼女の「棒読み演技」は、映画館を凍りつかせました。そのほか、地球連邦大統領に森繁久彌さん、岡田真澄さん、平田昭彦さんなどの大御所も出演しています。
ユーミン主題歌とエヴァとの関係
主題歌「VOYAGER〜日付のない墓標」松任谷由実
劇中歌「さよならジュピター」杉田二郎
このユーミンの曲が、エヴァ最終作のクライマックスシーンで使われたものです。
庵野秀明さんは「『さよならジュピター』はダメな映画だと思うけど、僕は好きなんですよ。『エヴァ』の第3新東京市もなぜ第3かと言えば本作に登場する長距離旅客宇宙船の名前が「TOKYO-3」だからです。あと、予告編ではクライマックスでユーミンの『VOYAGER~日付のない墓標』が流れるんです。それで期待して観に行ったのに「まさかエンディングでちょっと流れるだけとは!」と大ショック(笑)。あそこで歌がかかっていれば、もっと感動できたはずなんですけどね。」と語っています(完全読本 さよなら小松左京でのインタビュー)。
ちなみに、シンエヴァで「ヴンダーが突進するシーン」で流れるBGMは、1977年公開の特撮SF映画「惑星大戦争」の曲をアレンジしたものでした(笑)
また、「小松左京音楽祭」を開催するほどのマニアである樋口真嗣監督もまた、本作の大ファン。「かつてない精度のミニチュアを作り、それをモーションコントロールカメラで撮影というのは、今までの日本の特撮では考えられないことでした。知り合いを頼って撮影を観に行かせていただきら人垣の中に大きな身体をした小松左京先生がいらして、遠巻きに見ていましたね。その時のことが契機となって、僕は映画界に入っていったんです。その意味でも、僕にとって、重要度の高い作品なんですね。」と語っておられます。
お2人のこうした熱量で「シンエヴァンゲリオン劇場版」では本作以上に、この主題歌が効果的に使われることになったのですね。
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