昭和特撮における「封印作品」といえば、なんといってもこの「サンダーマスク」です。
それも1話だけではなく、丸ごと「お蔵入り」。
なにせ手塚治虫先生の原作で、放映当時、それなりに人気があり、記憶にある方も少なくないはず。そして1980〜90年代までは再放送もされていましたが(今ではその録画ビデオが高値で取引されているようですが)、現在は公式には、シリーズ丸ごと、まったく観ることができません。
かなりのマイナー作品でもDVDやBD化される特撮番組で、かなり異例の事態です。
「サンダーマスク」
1972(昭和47)年10月3日〜1973(昭和48)年3月27日
毎週火曜 19:00 – 19:30
日本テレビ系列
東洋エージェンシー/ひろみプロダクション共同制作
全26話
「原作 手塚治虫」…?
「サンダーマスク」は手塚治虫先生原作、と思われていますが、それは正確でなく、手塚先生自身も「テレビ企画の方が先」とコメントされています。事実、手塚先生によるマンガ版はコミカライズというのが正しく、手塚作品としては異例です。
講談社漫画全集、秋田書店から文庫版としても刊行されていて、いまでも入手可能です。
「サンダーマスク」はどこから来たのか
wikiなどでの通説は
ーかつて手塚先生が経営していた「虫プロダクション」が手塚先生の「魔神ガロン」を実写化する企画があったが同プロが倒産してしまい、頓挫。その後、虫プロのスタッフの一部が設立した「ひろみプロダクション」がこの企画を引き継ぎ、「サンダーマスク」になったー
と書かれています。わかるようでいまひとつわからない説明です。
「封印作品の謎 2」(安藤健二著/太田出版)によれば、企画者の平田 昭吾氏のコメントとして、
「手塚作品以外も企画しようということだと、手塚プロの名前でやるわけにはいかない。それで作ったのがひろみプロだった」
「手塚先生のマネージャーもしている自分が前面に立つわけにはいかないので、経理をやっていた斎藤ひろみさんに社長になってもらいました」
「”手塚版のウルトラマン”を作れないかということで、日活時代の仲間や円谷プロの人たちに声をかけた」
とあります。
要は「ひろみプロ」は「サンダーマスク」ありきで作られた虫プロOBによるプロダクションで、それで手塚先生もコミカライズで手伝った、という事なのでしょうね。
ちなみに「魔神ガロン」は何度か実写化計画があり、「マグマ大使」の折にも浮上しましたが結局番組化されないままでした(パイロット版は存在)。
1972(昭和47)年の特撮ヒーロー
等身大モノでは「快傑ライオン丸」「超人バロム・1」「レッドマン」「変身忍者嵐」「トリプルファイター」「人造人間キカイダー」「愛の戦士レインボーマン」「突撃!ヒューマン!!」など。なかなかの異色作だらけの顔ぶれです。
巨体ヒーローものとしては「行け!ゴッドマン」「アイアンキング」「ウルトラマンA」。
そしてこの「サンダーマスク」はその中間、等身大から巨大への“2段変身”がウリでした。
この頃、特撮ヒーロー番組はもはや百花繚乱から粗雑乱造時代に突入し、予算も逼迫。
それでも独自性と差別化を求めて迷走し、おかしな設定、雑なストーリーラインが頻発するようになっていた時期なワケです。
予算超過で番組終了
特撮番組制作では円谷プロ、東映、東宝、そして我らがピー・プロダクションまではギリギリ、メジャーリーグ的な立場で、この「ひろみプロ」は弱小独立プロ。
この当時の「ウルトラ」シリーズの制作費は1週あたりおよそ500万円といわれていますが、この「サンダーマスク」は等身大ヒーローものの「仮面ライダー」などと同レベルの週300万円程度の予算しかなく、“2段変身”はそれをカバーするための策でもあったのでしょう。
それでも毎週1話完結で新たな怪獣を登場させ、特撮セットを組んでいます。戦闘シーンは燃えさかる火炎など、なかなかの迫力です。
しかし、そんなことをしていては、あっという間に財政状況は火の車に。
そのため15%の平均視聴率と、そこそこの人気を誇りながらも半年間、26話で終了となりました。
権利問題勃発からの封印
そしてこの予算超過が、思わぬ事態を生みます。広告代理店の東洋エージェンシー(現 創通)が放送終了後にひろみプロからマスター原盤を一方的に引き上げてしまうのです。
それでも前述の通り、80〜90年代までは再放送もされていたようですが、やがて完全に姿を消し、DVDやBD化はもちろん、衛星、ケーブルテレビなどでの放送もなく、完全に「封印」されてしまうのです。
過去の特撮作品がリマスターなどで再発されるたびにこの「サンダーマスク」も観たい、という声がマニアから上がりますが…
その度に創通は「マスターフィルムの状態が悪い」「ネガフィルムしかない」挙げ句の果てには「全部無い」などと供述が二転三転。
この対応のマズさも手伝って「東洋エージェンシー(創通)が諸悪の根源」という説が一般的ですが、一部では「ひろみプロが予算超過してあちこちに支払いを滞らせ、その尻拭いをしたのが東洋エージェンシー(創通)であり、怒ってマスター引き上げたのも無理もない」とする、擁護派の声もあります。
ともあれ、当時の権利契約は杜撰なものが多く、さらには当時想定されていない衛星放送やDVDなどのメディア化については契約に明記されていないため、創通が無用なトラブルを避けて封印している、というのが実情だとされています。
ツッコミどころ満載の内容にも問題アリ?
“「サンダーマスク」が観たい“というマニアの声は、本作がまごうことなき「B級の中のB級作品」であり、その破綻ぶりがなかなか凄まじい、という事もあるのだと思います。
Dailymotionで(おそらく1994年の東海テレビでの再放送を録画した)映像を観ることができます。OPとEDはYouTubeでも視聴可能。まずのっけから主題歌のズンドコぶりでズッコケます。
「ババン バリバリーン、サンダー!シュワ シュルルーン、サンダー!」のバロム1も真っ青の歌い出しから、「とことんまで やっつける」、サビは「サンダー!サンダー!」8連発など、メロディも歌詞も唄も、テンション高いのか低いのかわけわからん感じで、もはや狂気を感じます。とにかく、やっつけにも程があります。
スタッフには日活で特殊技術を担当し、「大巨獣ガッパ」の特技監督でもある金田啓治氏が企画を務め、その金田氏の招聘により「ウルトラマン」の脚本家 上原正三氏、藤川桂介氏、「ゴジラ」の本多猪四郎監督など、豪華な顔ぶれが揃います。
にも関わらず、なんでこうなるの?というスットコな作品に仕上がってしまっているのでした。
有名エピソード
第12話 「残酷!サンダーマスク死刑」 ではタイトル通り串刺し、磔にされ、悲鳴を絶叫し続けるサンダーマスク。
第19話「サンダーマスク発狂」は当時社会問題化した若者のシンナー遊びを題材に、主人公がシンナー中毒の狂人と化して街中で大暴れ。
そしてもう一つ、第21話 「死の灰でくたばれ!」。こちらは体内に原子炉を持つその名も放射能魔獣ゲンシロン(しかも茨城県東海村出身)が放射能入り牛乳を人間に飲ませる、というエピソード。
仮に権利問題がクリアされても、これらの放送、ソフト化は実現するのでしょうか…。
そして最終回の展開もなかなかのズンドコぶりで、結論としてサンダーマスクは、敵とともに消滅してお星様になってしまうのでした…。
もう一つの封印作品との因縁
前述の書籍で金田氏は
「当初はサンダーマスクのデザインも、ウルトラマンのデザイナーの成田亨さんに頼んだんです。ただ、彼はサンダーマスクのデザイン画を描いてくれたんですが、ギャラが合わなかったため途中で降りて「突撃!ヒューマン‼︎」という別の特撮番組の方に行ってしまいました。それで、私が米軍のグリーンベレーをモデルにデザインし直したんです」
と語っています。
この「突撃!ヒューマン!!」がまた、「サンダーマスク」とは別の事情で、いままったく観ることができない幻の作品となっているのです。
そんなワケで、次回はその「突撃!ヒューマン‼︎」をご紹介します。
<関連リンク>
コメント
またコメントさせていただきます。最近ある方のブログを拝見していましたら「サンダーマスク」の事が書かれていました。特撮関係の本を出されている岩佐陽一さんにソフト化について質問されたのですが、「サンダーマスク」の権利を持っている人がこの作品にとても嫌な思い出があるそうで発売させないために高額な権利料(お金が欲しいのではなく発売させないため)を求めるそうで、岩佐さんもメーカーを3回変えて交渉したが駄目だったという内容でした。感情的なことが絡んでいるのではソフト化は関係者が全員亡くならない限り無理なのかなと思った次第です。
コメントありがとうございます!なるほど・・・初めて知りました。「権利を持っている人」とは誰なのか、また「嫌な思い出」が気になり過ぎますねw 原盤はあるってことなんでしょうね。
本放送当時に電器店に勤めていて全話録画した人がいるとかいうコメントをネットで目にした事がありますが、とにかく封印がとかれて全話観られる事を願っている作品ではあります。日本で駄目なら海外でDVDやBDを出せないものでしょうかね。でも逆輸入されてしまうからやっぱり駄目か。創通とひろみプロとのトラブルだけでなく、もっと別の問題とかも絡んでいるためソフト化や放送ができないのでしょうね。結講深い闇を抱えている作品なのかもしれません。
コメントありがとうございます!ホントになぜここまで頑なにソフト化しないのか、謎ですよね・・・。もしかしたらホントにマスターがダメなだけだったりしてw